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遠方放射界

観測点が遠方にある場合にはハンケル関数の漸近展開式 (A.11) より、式(2.3)は

\begin{eqnarray*}
\mbox{\large$\phi$}(\rho,\varphi )
&\simeq&
-\frac{1}{4}\om...
...-jk\rho}
\sum_{n=0}^{\infty}\epsilon_n j^n Z_n(kd)\cos n\varphi
\end{eqnarray*}

と表すことができる。

ところで、線電流源からの遠方放射界は式(2.4)と ハンケル関数の漸近展開より、

\begin{displaymath}
\mbox{\large$\phi$}_1(\rho)
\simeq
-\frac{1}{4}\omega\mu I_0
\sqrt{\frac{2j}{\pi k\rho}} e^{-jk\rho}
\end{displaymath}

と表されるので、この電界の強さで規格化すると 遠方での放射指向性が得られる:
\begin{displaymath}
D(d;\varphi )
=
\sum_{n=0}^{\infty}\epsilon_n j^n Z_n(kd)\cos n\varphi
\end{displaymath} (2.12)

更に、ベッセル関数の級数表示に関する公式 [III,p.211]2.3を用いると、

\begin{displaymath}
\sum_{n=0}^{\infty}\epsilon_n j^n J_n(z)\cos n\varphi
= e^{jz\cos\phi}
\end{displaymath}

と式(2.2)を用いると、
\begin{displaymath}
D(d;\varphi )
=
e^{jkd\cos\phi}
-\sum_{n=0}^{\infty}\eps...
...\frac{J_n(ka)}{H_{n}^{(2)}(ka)}
H_{n}^{(2)}(kd)\cos n\varphi
\end{displaymath} (2.13)

と書き換えられる。 ここで、右辺の第1項は線電流源からの放射界と一致しており、 右辺第2項は円筒導体による散乱界と解釈できる。

図 2.2: 完全導体円筒近傍の線電流源からの放射界
\includegraphics[height=20em]{cyldat.eps}

$a=0.5\lambda$,$d=1.5\lambda$の場合の計算例を 図2.2に示す。 左図は、フーリエ級数の係数の値を示す。 また、右図は放射パターンを示す。 波源から見て円筒導体の裏側の領域で電界強度が減少している。

左のフーリエ係数の図において、 横軸は$n$であり、縦軸は$\cos n\varphi $の係数の絶対値を対数目盛で示す。 図の実線は式(2.12)の係数を計算したものであり、 破線は式(2.13)を計算したものである。 いずれの場合も、$n$がある程度以上に増加すると単調に、 ほぼ、指数関数的に減少している。

実際の数値計算では、この係数の収束の様子を元に、 有限項で$\sum$の計算を打ち切る。 このように、遠方界を観測角$\varphi $のフーリエ級数で展開する場合、 経験的には、原点から散乱体の端までの距離を$D$とすると、ほぼ、 展開係数は $kD=2\pi D/\lambda$まで振動し、 $n$がこれを越えると指数関数的に減少する。 したがって、フーリエ級数の項数は$(kD+5)$$(kD+10)$程度が必要になる。 この例の場合、全電界を計算する場合は、線波源までの距離が$d=1.5\lambda$ であるから$n=15$$20$項までの計算が必要であり、 散乱界のみを計算する場合は$a=0.5\lambda$であるから$n=8$$13$程度 が必要となる。



T.Kinoshita 平成15年6月18日