デジタルの利点

では最後に、「なぜデジタル方式が普及したか」を考えてみよう。

PCM方式は1950年代に開発され、その目的は1つの電話線でできるだけ多くの音声通話を伝えることだった。つまり、「情報圧縮」が第一の目的であった。

PCM方式でも劣化が生じる、ということはすでに説明した。

それでは、現在オーディオなどの、情報圧縮よりも音質が優先される応用でPCMが使われるのはなぜか?

それには様々な理由があるが、わかりやすい例として、音楽のミキシングを以下に示す。

アナログ方式によるミキシング

アナログ方式では、確かにマイクからスピーカーを直結すれば、最も信号の劣化が少ないが、実際にはミキシングや録音の際に多くのノイズが混入し、劣化も大きくなる。

これに対しデジタル方式でミキシングを行うと次の図のようになる。

このように、たしかにADCとDACによる劣化が加わるが、信号の伝達や、ミキシング、録音再生などで、事実上完全に無劣化で処理を行うことができる。

デジタル方式では、記録メディアや伝送路を有効に利用することもできる。

元々PCM方式は、1本の電話線を用いて、最も多くの通話を行うことを目的として開発されたことを説明した。同じように、通常の電話通話では、非常に低い音声しか伝達できないが、同じ通話を通して、HE-AAC符号化したデータを送れば、かなり良い音質のステレオでオーディオを伝達できる。